29.9.15

心地よい陽気の街*ザグレブ

10月から11月にかけての約二月、私はクロアチアの首都ザグレブで生活していた。
旧ユーゴスラビア諸国は約20年前にできたところが多く、なんとなく治安の面での不安があった。


けれど、実際に来てみるとその不安はほとんど解消された。
日本と違い、ヨーロッパ諸国では大都市圏の駅前は街の中でも治安が悪いエリアであることが多いのだけれど、ザグレブを歩いたときは全くそういう印象は受けなかった。

 
駅前からグリーンベルトの公園が中心部のドラツ市場まで続く。


ドラツ市場は観光客や地元の客でいつも賑わっている。
日本人にとっては嬉しい、マグロを始めとするたくさんの種類の魚や肉など何でもそろう。
どれも鮮度がいいので刺身にもできるのがまた嬉しい。
 

一応イワシのパックだけどよく見るとアジが混ざっていたりするクロアチアクオリティ。それがまた良い。


とにかく果物がおいしい。私の大好物のイチジク。紫のものと緑のものがある。
 

 
 
そして、もうひとつクロアチアで忘れてはならないのがビール。
中でもTmislavはアルコール度数がちょっと高くて飲み応え抜群でおすすめ。
また、ワインもいろいろあり、ソムリエのいるスーパー(!)で試飲もできたりする。
ピルスナーが好きな方にはドラツ青果市場地下で売っている脂身の揚げたものがぴったり。
身体に悪いのは間違いないのだけど、日本人の味覚にぴったり合うのも間違いない。

 
 
 
首都ではあっても郊外はとても長閑。
青い空の美しさがとても印象的で、歩いて散歩をするのが本当に楽しい。
現地の人に話を聞くと、内戦があったこともあり、人は少し用心深いというけれど、
日本人と比べればそんなに…という感じ。
街中はトラムが走っていて、その溝にはまりそうだったり、トラムに轢かれそうになったりで、私は自転車で走るのはちょっと苦手だったけれど、慣れればそんなこともないらしい。

 
 
携帯会社は常に30分以上の順番待ち。家庭用の導入は約一か月待ちだ。
とにかくものすごいスピードで発展を遂げている街、そんな印象を受けた。
そして、ようやくEUに加盟したことでそれはさらに加速していくことだろう。
 
先に加入したお隣のスロヴェニアとは似て非なる国民性ははっきりと感じられた。
あと何年か後に再び訪れたい街。
クロアチア。ザグレブ。


16.9.15

ワインが生み出す空間*札幌

札幌の秋の風物詩となりつつある、『さっぽろオータムフェスト』。
中心部の大通公園で半月に渡って開催される、北海道の味覚が一堂に集結するイベントだ。
 
 
なかでも私が気になっていたのは、北海道が生むワイン。
北海道では温暖化の影響を受けて、年々ワイン用ブドウの栽培がしやすくなってきているそうだ。
品種としては白はドイツのケルナー、赤はオーストリアのツヴァイゲルトなどが主流のよう。
 
 
他の国産ワインよろしく、やはりヨーロッパでのワイン祭りと比べてしまうとなかなかいいお値段なのだけれど、
これだけの期間に、これだけの種類を楽しめる立ち飲みバーが設置されるというのはすごいことではないだろうか、と思う。
 

 

 ヨーロッパで出会った、「ワインが身近にある空間」は私にとっては衝撃的で、
日本で持ち続けていた、ヨーロッパの手の届かない高級感が良い意味で崩れた瞬間でもあった。

日本でもワインは徐々に広まって、最近ではバル(なんでスペイン語なのだろうといつも思う…)も増えて気軽には飲めるようになってきてるとは言っても、
日本酒やビールと比べるとまだまだ高級品でおしゃれなイメージが強く、ある種のステータスにもなっているように思う。

価格が変動しない以上、なかなか価値観を変えることは難しいのだろうけれど、
ワインには他のお酒にはない、空気を滑らかにする特別な魅力があると私は思っている。

優雅、特別、上品、お洒落。
決して悪い言葉ではないのだけど、もっと身近な優しい言葉が似合う魅力が。
大げさだけど、日本人に足りない何かがそこから生まれるのじゃないかなんておもってしまったり。

余市・ツヴァイゲルトレーベ&道産素材を使ったペスカトーレ

ドイツ・リースリング&道産チーズ

十勝・清見、山幸&ミュンヘナーヴルスト、ザワークラウト
 
ワインの歴史はまだまだ浅く、質も量も磨かれていくのはこれからなのだと思う。
 
でも、ワインを取り巻く環境が特に北海道には豊富にそろっている。
多くの食材と、何よりも物理的に大地を感じる広大な空間。

このお祭りにはそんな魅力的な空間のカケラがあるように思う。
それがなんだか今の私はすごく嬉しかった。



6.3.15

美食の街*リヨン


フランス第二の都市、リヨン。かつては絹で栄えた商業都市。
街はセーヌ川とローヌ川の二つの川に分断された3つの地区からなる。

美しいのはやっぱり川沿いの手工業の街並み。
どこかの絵でこんな風景を見た気がする。
パリのベースの色が白ならば、リヨンの街は淡彩色だと思う。

 


この街、名物のクッスンをいただきながらエスプレッソを飲んだ。
日本の和菓子を食べながら抹茶を飲んでいる感覚になるから不思議だ。

同じヨーロッパでも隣り合うドイツとはちょっと違う。
ドイツならば大きいケーキに伸ばしたコーヒーが合う。
どちらかが良いわけではなくて、おしゃれなわけではなくて、
そこの空気ではそれぞれが居心地よくさせる気がする。



美食って何だろう。

同じ価格帯なら、美しさというものなら日本のほうがきっと素敵な料理とサービスが出てくるに違いないと私は思う。

でも、美しい時間というのならどうだろう。
地元の大地を感じる時間をこんなに楽しむことが出来るだろうか。
気取らないけれどかけがえのない時間を楽しむことが出来るだろうか。

食でも、人でも、美しさは本当に奥が深い。
でも、全てが明確ではない部分の味わい。隠れた部分があるからでこその味わい。
それが本当の美しさなのかな、と思う。

7.2.15

氷の街*釧路

日本の東北の果て最大の街、釧路。
かつては炭鉱と漁業の街として栄えたそうだが、今はどちらかというと道東の観光拠点というイメージが強い。


北海道の中でも特に冷涼で、夏でも25度を超える日は珍しく、避暑地としてにぎわう。
一方で冬場は他の場所と比べるとそれほど冷え込まないのだが、冬は寒いだけという印象が強いらしく、観光客はぐんと減る(これは北海道の他の場所にも言えることだが)。

 
街を見るのなら、私は冬の釧路のほうが好きだ。
その理由は街の中に溶け込んでいる釧路の建築物にある。
毛綱毅曠(もづなきこう)設計のフィッシャーマンズワーフ、市立博物館、市内のいくつかの校舎はじめ、幣舞橋上の四季の象などがそれだ。

これらから受けるのは、城や銀行、商館などといった経済や権力の盛衰の流れを強く考えさせられる過去の繁栄の遺産とは違う、どちらかと言えばバルセロナのガウディの作品群に近い、時代を超えて大地に作品を根付かせようとする作家の表現力を追求する強い姿勢だ。

雪や氷に他のものが覆われることで、それらはより強い主張を訴えかけるように感じるのだ。
それは、人のそばにあるのに、今の人の生活とは一線を画した特別な空間を創りだしているように感じる。

 

3年間過ごしたこの街には、例えば同じ道東にある、知床のような現生の自然を感じさせる圧倒的な景色はない。
むしろ、人の生活風景がそれを凌ぐ、道東の生活圏の中心となる大きな都市である。


けれど、氷に閉ざされどんよりと曇る冬空のもと、自然と人の手によって創られた創作物との絶妙な組み合わせが、ふとまるでここではないどこか別の世界に誘ってくれるような雰囲気を孕む、日本最北の芸術の街だとも思ってる。

夜の釧路川の闇と蓮氷の淡く光に照らされるオレンジに、吸い込まれ酔わされる。

15.11.14

過去と未来がある街*ベルリン


何かに惹かれてやってきたドイツ。
だから、絶対にこの目で見て知っておきたかった、首都ベルリンのこと。

そう思い続けてやっと来れたベルリンは、想像していたよりもずっと優しくて、落ち着いた街でした。



季節は秋の真っただ中。

道路には街路樹の落ち葉がたくさん降り積もっていた。


今までヨーロッパを歩いてきた街の中で、日本人が憧れた西洋はパリだったんだと思っていた
けれど、ああドイツにもそんな場所があったんだ、そう思えたのがここ、ベルリン。
森鴎外の舞姫の冒頭を思い出して無性に読みたくなった。
 
 
でも、日本と同じように、もしかしたらそれ以上に70年前に一度壊れてしまった街。
「壁」というものが作られ、25年前までその戦争の名残を残していた。
その「壁」は、70年前の戦争の名残と言うよりは、
それ以降の世界史の移り変わり象徴だったのだと思うけど、それでもこの街は分断され、
今は同じ国の住民同士で違う歴史をたどってきた。
 
 
私はその戦争を知らない。
私はその時代を知らない。
 
 
きっとどんなにその時代のことを調べたって、これっぽっちもそこに暮らしていた
人のことなんてわかるはずはないんだろうけれど。
それでも私は、今その時代に生きていた人たちのいる街で暮らしてる。

18.10.14

青の湖群と森の世界遺産*プリトヴィッツェ湖群国立公園


暖かいクロアチアにも少しずつ秋は近づく。
ふと目をやれば、ザグレブの街中でもツタが赤く染まってくるのが目に留まり始める。

もうそろそろかと思い、秋になったら行きたいとかねてより計画していた、
ザグレブからバスで2時間半ほどの場所にあるプリトヴィッツェ湖群国立公園へ出かけた。

世界自然遺産に登録されている国立公園で、最近ではアジアでも知名度が高く、
最盛期は大変な混雑になるそうである。

 
この日はそこまででもないと思うが、アジアからの団体客をはじめ、
世界中からの観光客で船着き場は賑わっていた。

 
場内は入園料で船やバスを自由に乗り継ぐことができる。
個人的にはバスも船も国立公園にとても合ったつくりをしていて
(船はエンジン音がほとんどせず、水面もほとんど波立たない、
バスは天候に左右されず乗りやすい作りをしている等。)、
とても感心した。


紅葉の具合は思ったよりもすすんでいなかったのだけれど、
いくつかのポイントでは写真のような紅葉と森と湖との図を切り取ることができた。


増水のため、いくつか通れない道もあったけれど、見たい構図はたっぷり楽しめた。
今回利用したのは行きがザグレブ8時40分発、帰りがプリトヴィッツェ16時45分発のバス。
これで多少端折りながらも、体力のある人ならば十分に満喫できると思う。

昼食はバスターミナルで確保がおすすめとされることが多いが、
園内のセルフサービス式レストランは料金も手ごろで、
日本人の口にも合う料理が楽しめる。
この日は暑かったので、レモンの入ったOzujskoのラドラーがとても美味しかった。


透き通るような水の中に泳ぐ、たくさんの魚の群れも見ることができる。
ただし、本来いるべきマスはわずかで、ほとんどはコイの仲間だ。
もちろん禁止はされているのだがエサをやっているビジターも多く、
それが要因の一つでもありそうだ。
エサやりはにほんの文化だとばかり思っていたが、どうやらそうでもないらしい。


世界自然遺産にはユネスコが定める4つの登録基準があるが、
プリトヴィッツェ湖群国立公園は、そのうち以下の3つが評価根拠となっている
(UNESCO World Heritge Centre : http://whc.unesco.org/en/criteria/)。

(7) ひときわすぐれた自然美及び美的な重要性をもつ最高の自然現象または地域を含むもの。
(8) 地球の歴史上の主要な段階を示す顕著な見本であるもの。これには生物の記録、地形の
  発達における重要な地学的進行過程、重要な地形的特性、自然地理的特性などが含まれ
  る。
(9) 陸上、淡水、沿岸および海洋生態系と動植物群集の進化と発達において進行しつつある重
  要な生態学的、生物学的プロセスを示す顕著な見本であるもの。

かみくだけば、
(7)自然美と景観美が素晴らしい
(8)地球の成り立ちを示すものがある
(9)豊かな生態系ネットワークの存在してる
といった感じだろう。

それを頭に入れて改めてこの公園を見るのもまた興味深い。

でも、私にとっては初めて歩いたときの自分の感覚が、いつだってその場所の評価基準だ。
一番は、一年を通してまた来て見てみたいと思える場所かどうか。

そして、間違いなくここも、また違う光に包まれた瞬間を見てみたいと思える場所だった。


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追記。

ちなみに、もうひとつの基準は、
(10) 生物多様性の本来的保全にとって、もっとも重要かつ意義深い自然生息地を含んでいる
  もの。これには科学上または保全上の観点から、すぐれて普遍的価値を持つ絶滅の恐れ
  のある種の生息地などが含まれる。

つまり、
(10)希少種が存在している
ということ。
また、日本の自然遺産はそれぞれ、
白神山地では(9)、知床では(9)(10)、屋久島では(7)(9)、小笠原諸島では(9)
が評価根拠になっている。

14.10.14

実りのブドウ畑の記憶*リューデスハイム

 
 
2013年10月初旬。ドイツはライン川のほとりのリューデスハイム。
ワイン好きの人であれば知っているであろう、ここはドイツワインの一大産地だ。
とくにここで有名な品種は収量の最も多いリースリング。
フルーティーな香りと酸味が特徴の白ブドウである。


リューデスハイム周辺のラインガウ地方は、南向きの急斜面の丘が広がることで、
美味しいワインを作るためのブドウを生産するのに十分な日射量を受けることができる。
また、ライン川からの太陽光の反射も加わることで、「太陽の2度当たる場所」
とも呼ばれてきたように、古くからワインの好生産地となってきた。

そんなワイン産地が一段と活気づきはじめるのがこの9月下旬から10月にかけての季節。
丘一面のブドウ畑ではブドウの実が輝き始め、葉は少しずつ色づき始める。


街では昨年収穫されたブドウによる発酵途中のワインの新酒、
フェダーヴァイザー(独語:Feder Weisser=白い羽)が振る舞われ、
今年のブドウの収穫への期待も高まってくる。

Feder WeisserとZwiebel kuchen(玉ねぎのキッシュ)のセット
飲めるのは例年9月下旬から10月半ばころまで

ドイツといえばビールのイメージが強いが、この地方ではむしろワインのほうが好まれていて、
カフェでももっぱら昼間からワインを飲んでいる人の姿のほうが目につく。

ワインの地産池消の街。
日本の高いワインのイメージからするとなんともすごく贅沢な気がするが、
日本のように質の良い水を豊富に得ることができなかった古きヨーロッパでは、
ワインは保存できる水代わりに飲まれていたという話も聞く。

もちろん今ではそんなことはないのだが、
それでも日常に欠かせない飲み物であることには変わりがない。
ワインの格付けにはテーブルワインという位置づけもあるくらいだ。


ブドウの収穫作業には様々な地域・国からの労働者が携わることも多い

ところ変わればではあるけれど、もしかしたらこのリューデスハイムのブドウ畑の広がる風景は、
日本人にとっての茶畑のようなドイツ人にとっての心の原風景なのかもしれない、
とマルクト広場のワインスタンドでグラスに注がれた輝く黄金色のワインを片手に、
和やかな時間を過ごすドイツ人の旅行者たちを見ながら思った。