4.9.14

アドリア海の真珠と呼ばれる街*ドゥブロヴニク

上空からのドゥブロヴニクの眺め

クロアチアで最も有名なリゾート地といえば、ここドゥブロヴニクだろう。
街に足を一歩踏み入れれば、それが間違いのない事実、
そして同時に、今最もホットな場所であることもよくわかる。


ダルマチア地方のクロアチアの飛び地であるドゥブロヴニクは14世紀から16世紀にかけて海洋国家として繁栄を極めた街だ。
城壁でぐるりと囲われた街全体が世界遺産になっているが、
1991年のクロアチア独立の際の内戦によって8割がた街は消失、大部分はその後に作られたものだそう。


以前は歴史が古い割に妙に綺麗な石造りの街並みを見ると、
観光地化のためにするなんて嫌な感じだと思っていたけれど、
最近はかえってその美しさに、これを壊した戦争のもつ広大なエネルギーの恐ろしさや、
石の下に眠るたくさんの人の魂を痛いほど感じるようになった。
そう意味ではいくら美しくても、ただのテーマパークとは違うなと思う。

今も昔も海の色は変わっていないのかな、と思いながら城壁の間から海辺に出ると
9月に入ってもまだ暖かい海で泳ぐ人々の姿をたくさん見つけた。


とても広く見える海だけれど、ヨーロッパの国の間だけに広がる地中海。
今はこんなに穏やかだけれど、この海の下には様々な歴史が眠っているんだろう。

27.8.14

光と闇のあるところ*スピッツベルゲン島


8月下旬。

最北の街にも約4か月ぶりの夕焼けがやってきた。
太陽の有難さ、なんていうと少し説教臭いけれど、
一生で太陽のことを考える時間がここで暮らした数か月以上に来るとは思えない。

明けない夜はない。
一番星に願うこと。

当たり前のような癒しや希望を探す愛の決まり文句の詩が、
こんなにもあっけなく嘘になる世界があるなんて知らなかった。

自分の周りにある世界のモノや、コトだって、
ちょっと自分の空間を超えたら全く別のものになってしまうものなんて
本当はきっとたくさんあるんだろう。

私のこの島での生活も終わりがやってきた。
これから私に廻って来るいくつもの光の時間、闇の時間をもっと大切に生きたいと思った。


光の下で生きていける時間はあっという間だ。

23.8.14

石炭の島*スピッツベルゲン島

スピッツベルゲン島は遥か昔、赤道付近にあったのだそうだ。
それが現在は北極圏へ。
今を生きている私たちにはなかなか想像しがたい事実だけれど、
その証拠は、島名の由来にもなったたくさんの尖った山(独語:Spitz=先端、Bergen=山々)の
チョコレートの層のようになった地層を専門家がよくみるとわかるらしい。


そしてそんな層からはその時代にここに茂っていた、
今となっては一本もこの島には生えていない木本植物の化石が見られる。
化石ハンティングがひとつのツアーになっているくらいだ。

その事実はすなわち、人類にとってのエネルギー、石炭もこの島に眠っているということも意味する。
先人たちがその事実を早く知らないはずがなく…
というよりもこの島の開拓の歴史の主要な部分はそこから始まるといってもいい。
そもそもこの島の首都ロングイェールビン(Longyearbyen)というのも
アメリカ人の炭鉱経営者Longyearからきている。※Byenはノルウェー語で街の意味。

街は炭鉱の経営によって始まり、現在も経済を支える主要な産業は炭鉱であり、
電力も石炭である。


ロングイェールビンから内陸に進んでいって30分ほどの隣町ニビェンとの間には、
地元の子供たちに「夏場のサンタクロースの家」と呼ばれる旧炭坑跡がある。
これが日本だったら記念碑作ってとっとと撤去されていたであろう、古めかしさ満載。

調べてみると、最初に設立されたのは1913年。
第二次世界大戦中にナチスによって爆撃され、1943年から1962年まで燃え続けたのだとか。
こんなところにまで戦争の影響があったことにも驚きだが、
18年も燃え続ける石炭のパワーにさらに驚く。


現在のは新しいもので、閉山となる1968年まで使われていたものだそうだ。
かなり険しい斜面ではあるが(多分45°以上)、登ることも可能で自己責任だが中にも入れる。
廃墟マニアと歴史好きにはたまらない場所ではないだろうか。
そして意外と次から次へと人が訪れる


で、最初のサンタクロースの家と呼ばれる由来だが、
サンタクロースがプレゼントを届けるための資金稼ぎに夏場に炭坑で働いているというものらしい。
普通だったら完全に心霊スポットになりそうな場だけれど、
そんなファンタジックな物語が生み出されて過去の正であり負でもある遺産を現在に生かして生活しているところがとても面白くて興味深い。


クリスマス前にはサンタポストが設置され、イルミネーションも着くのだとか。

6.8.14

野生動物が纏う空気*スピッツベルゲン島


 
野生動物と人とのかかわり。
道端でごみを漁るキタキツネ(北海道・羅臼町)
 
ここにキツネがいると聞いて、日本と同じように人の住んでいる場所の近くだから
すぐにみられるだろうと高をくくっていたのだけれど、待てど暮らせど見かける機会がなかった。
日本に住んでいた時は、登山者のバックパックを引き裂いて食べ物を盗んだり、
民家の近くでごみを漁っていたりする様子がよく見られたので、ここでもそんな感じに見られるのかな、と思っていた。
むしろ、それよりもっと食欲旺盛と聞くホッキョクギツネはそれよりもすごいのだろうか、なんて思っていたり。
 
ここでようやくその姿を見かけることができたのは、ここにくらすようになって3か月ほどたつ、
夜の21時ころだった。曇りで少し薄暗い頃だった。
 
窓を開けて空気の入れ替えをしようとしたときに、
窓の外の動く塊を見つけて慌ててカメラを持って外に出た。
 
 
地面を掘ってネズミか何かを探しているようだった。
ふと、私と目の合った彼の赤い瞳。
言葉ではうまくは言い表せないけれど、日本で見たキツネとは違う、完全に人間とは別の世界に住む生き物の空気を感じた。
そして、あっという間に丘を駆け上がり消えていった。
 
この島では昔からキツネは狩猟対象の動物の一つだ。
それが彼らのヒトへの警戒感を高めているのかもしれない。
 
 
人間は野生動物を支配できる立場にあって、
愛でることもできれば、殺すこともできるのは紛れもない事実だ。
 
野生動物だって学ぶことはできる。愛されればもっと近づいていく。
生き易い方向に流されていく。
でも、その生き方は彼らがその種として生きることの破滅へ向かうことを意味している。
 
 
動物と人との距離。
 
野生動物は別の世界で生きている生き物。
支配できる力を持っているヒトだからこそ、その距離がどんなに大事なものなのかを知っていなくてはならないのではないかなと思う。
 
私は野生動物の纏うこの警戒感が好きで、本当に美しくて愛すべき姿だと思う。


25.7.14

静かな夏*スピッツベルゲン島

日本では梅雨も終わり、これからが本格的な夏になろう、というところだろうが、
私の個人的な感覚からすると、この島のあたりではもう夏も最盛期を折り返しているのではなかろうか、
と思う。

人も。自然も。

一面を覆っているチョウノスケソウが散ってくると寂寥感が漂う。


もちろん相変わらずの白夜続きなのだけれど、観光客は6月に比べると減り、
また地元民も長期ホリデー期間に突入し、少し静かになっている。
さらに、あんなに島唯一の小鳥、ユキホオジロのヒナはいつの間にか巣立ちの時を迎え、
アジサシたちの威嚇行動も何かぱったりとなくなってしまったからだ。
これからが最盛期か、と構えていたけれど、世界中どこでも北の地域がそうであるように、
夏の最盛期というのは北であればあるほど分かりにくいのかもしれない。

と、少し暗くなってしまったけれど、こんな書き出しになったのは最近の気候にある。
白夜なのだが、最近の晴天率は異様に低い。
6月以降、快晴の日はおそらく2日程度、晴れたねと言えるのが5~7日程度、他はすべて曇り、ないし雨である。特にここ数日は激しく風が強い。

午後9時の虹。この日はずっと強風で雨だった。


こんな話をしていると、地元の人が例年こんな感じなのだ、と教えてくれた。
6~7月までは曇りが多く、8月になってから晴れの日が増えてくるらしい。
オゾンホールの下にいる身としては太陽サンサンなのもちょっと怖いけれど、
やっぱり万年雪が青空の下に輝いている光景は心が澄むような気がしてやっぱり好きだ。

26.6.14

『島の花』スバールバルポピー*スピッツベルゲン島

花壇や畑のないこの島では、家の外に広がるツンドラ草原がそのまま島全体にとっての庭である。
雪解け間もないころはコケが水を吸ってスポンジのような状態だけれど、夏に差し掛かるとその水も花が徐徐に姿を見せるようになる。その花の種類については前にも少し書いた。

けれど、島の花が咲く期間は短く、その多くは高緯度に位置するために、高地性で丈は低く、小さな花をつけるものが多く、近寄らないと気づかないものが多い。

しかし、そんな花の中にも大きくてひときわ目立つ花が一種だけある。
その名もスバールバルという名の付いた、このあたりの固有種スバールバルポピーだ。

Popaver dahlianum ssp. polare

それほど植物に詳しくない人でも、ポピーを見たことのある人なら一目でその仲間であるとわかるであろう、独特の長く柔らかい、たくさんの短い毛が生えた茎と、大きな花弁が特徴の花で、高さは5~30cmほど。

Longyearflora-A basic field guide (Longyearbyen feltbiologiske forening 2012 発行)によれば、砂利場や崖錐物(急傾斜地から剥がれ落ちた岩屑が下の斜面に堆積して出来た地形)に多く見られるそうで、私は住宅近くの道路わきの砂利斜面で多く見かけた。


ちなみにこの花、黄色の個体もある。



住宅のそばでさりげなく、でもすっくと立って凛と咲く姿は、まさにこの島の花にふさわしい夏のスバールバル諸島を代表する花である。

22.6.14

トナカイが暮らす場所*スピッツベルゲン島

トナカイの名前を知らない人はいないだろうが、もちろん日本には野生のトナカイはいない。
日本にいる二ホンシカは同じシカ科ではあるがシカ亜科というグループに入る(カモシカはシカと名がつくけどウシ科)。
トナカイはシカ科オジロジカ亜科というグループだ。

スバールバルトナカイ(Rangifer tarandus platyrhynchus

ヨーロッパのトナカイの生息地は少なく、スカンジナビア半島の一部、ロシアと北極圏周辺に限られる。
この島にいるトナカイはスバールバルトナカイと呼ばれるトナカイのグループの7種類のうちの一種(Rangifer tarandus platyrhynchus)。

トナカイの仲間は分布する地域によって、外見上でもわかるそれぞれの特徴を持っている。
一般的なトナカイをイメージしてから写真を見るとわかるかもしれないが、このスバールバルトナカイの特徴は、脚が短い、小型、顔が円っぽい。…なんだか文字で羅列すると小さい女の子の特徴を書いているよう。


基本的に、私は特に大きな動物には怖くて近づけないのだが、似たようなシカの仲間ではエゾシカしか見慣れていなかったので、骨格はしっかりしているのに、思ったより小さい身体で、でも大きな足を持ち、牛のように体を揺らす歩き方、というなんともアンバランスなこの生き物に大きな興味と親しみを感じた。

シカ科シカ亜科エゾシカ(27.02.2013)

以前、エゾシカの近くで暮らしていた場所では、エゾシカは様々な要因で増える傾向にあって、解決のために試行錯誤の取り組みをしていたが、ここではどうやらそれほど厄介な生き物ではないようだ。
この島には、エゾシカでいうならヒグマや過去にはオオカミのような天敵はいない。それでも彼らが爆発的に増えないのは、成熟した雌の妊娠率の年ごとの大きな変動(10~90%)と、北極圏という場所特有の、冬の気候の厳しさに左右される死亡率の年ごとの大きな変動、があるからのようだ。
(Norwegian Polar Institute:http://www.npolar.no/en/species/svalbard-reindeer.htmlより)

エゾシカの歴史と同じように、ここに生きるトナカイたちも、かつては狩猟によって劇的にその数を減らした。そして、現在は狩猟の解放は限定的になり、その数は400~1200の間で推移しているという。これから変わっていく地球規模での環境の変化は、今後彼らたちの生き方にどんな影響を与えるのだろうか。

 住宅街のすぐ近くに姿を見せるトナカイ

かつて人間たちは住むことのなかった頃から、この島でホッキョクグマ、ホッキョクギツネとともに生き続ける私たちと同じ哺乳類のうち、一番人間の目に触れる機会が多く、唯一の草食動物であるトナカイたち。
一見、闘争心のない穏やかそうな生き物に見えるけれど、その大きな足からはしっかりとこの島の地面に寄り添う逞しい生命力を感じられる気がする。