21.6.14

頭上に注意!キョクアジサシ*スピッツベルゲン島

夏場のスピッツベルゲン島の海岸沿いを歩くときには、少し気を付けなくてはならないヤツがいる。
その名はキョクアジサシ、Sterna paradisaea(Arctic Tern)だ。


胴体の大きさはハトぐらいだが、翼が細く長い。短く叫ぶような鳴き声と、鋭い赤い嘴。空を自由に飛び回り、アゲハチョウのように羽を大きく後ろに反らせながら着地する様は、世界にいろんな鳥がいれど、なかなかカッコイイ部類に入るのではないかと思う。


そして何といってもその生きざまに興味をひかれる。彼らは世界で最も長い距離を移動する渡り鳥だ。これが名前の由来にもなっているそうだが、一年の間に白夜を求めて南極と北極の間を移動するという、なんとも生きざま自体が謎めいている鳥だ。
一生に換算するとなんと地球と月を3往復もする計算になるそうだ(ナショナルジオグラフィックより
http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=20100113002)。

そんな話を知り、私もそれはそれは興味津々で彼らの到来を待ち、頻繁に浜辺へ出かけた。
野鳥のガイドブックでは例年5月最終週、ないしは6月初週にスピッツベルゲン島にやってくると記述されていたが、今年も例年通りといっていいと思うが、私が初めて観察したのは6月の2週目のはじめだった。

どうしてもその美しいフォルムを写真に収めたい、と思って追いかけていたが、渡ってきたばかりのころは警戒心が高く、彼らはなかなか近づかせてくれなかった。

私がキョクアジサシを初めて確認した日(09.06.2014)

ところが、それから2週ほどたったある日に浜辺に行ってみたところ、様子は大きく変わっていた。
なんと道路わきすぐ近くの地面にたくさんいる…。しかも近づいても逃げない…。
これがキョクアジサシの繁殖か、と思いながらも、ようやく思うような写真が撮れる、と心は躍りながら、近づきすぎない程度で一通り写真を撮った。

左側が道路、右が道路肩(20.06.2014)

地面で多数の繁殖行動が見られた(20.06.2014)

交尾しているペア(20.06.2014)

その後、再び新たな鳥を探しに歩き始めた。
しばらく何事もなく歩いていたのだが、ふと上空からキョクアジサシの声が聞こえる。
お、と思いカメラを取り出しながら見上げると、鋭い嘴をこちらに向けながら猛然と滑空してくるキョクアジサシ!あきらかに威嚇攻撃されている。
身体を低くしても、早足で退散してもなかなか引いてくれない。殺される訳はないのだが、怖い!
それから数日の間、あのフォルムと鳴き声がトラウマになったのは言うまでもない。

カモメを威嚇するキョクアジサシ

私は物理的な被害はなかったが、彼らに嘴や足蹴りされている観光客の姿も目にした。
スバールバルの自然を楽しむ手引きによると、もし、このような威嚇攻撃を受けそうになった場合には、頭上で棒のようなものを振り、静かにそのエリアから去る、とある。
そして、彼らが多い場所には注意看板と棒が置いてある。使うも使わないも自由だが、何があっても自己責任。ただ、最大限のリスクを排除するための情報と手段の提供をして、ここの自然を多くの人により楽しんでもらう。とても合理的な仕組みだ。

キョクアジサシが営巣するエリアに設置されている注意看板と棒


スバールバルでの野生動物との付き合い方の手引書
(EXPERIENCING SVALBARD'S WILDLIFE/Norwegian Polar Institute 2014発行)
の一ページ。右上がキョクアジサシに威嚇される人の写真。

どんなに体が小さい動物でも威嚇攻撃をする野生動物は怖ろしい。それは相手の本気だから当たり前だが、それを怖いと感じる瞬間、自分自身も動物のヒトに戻れる気がして、どこかでわくわくしている自分がいるのだ。
人間とは本当に不思議な生き物だ。

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