クングスレーデンには2つの道があるけれど、私が選んだのはそのうちの北のもの。
そしてその中でも10日間ほど取った休暇内で歩き通すことのできるNikkaluoktaからAbiskoまでの行程。7日間きっかりの旅程で計算したのは模範的な旅行者ではないけれど(1-2日程度の予備日を取っておくと精神的に楽で望ましい)、Interrailチケットでの旅だったので、もしどうしても無理だと思ったら3日目の行程で引き返そうと考えていた。
夜行列車と普通列車を乗り継いでたどり着いたのはKirunaという炭鉱の町。炭鉱を広げるために街ごと移動したという奇妙な歴史のある場所だ。
夜行列車から乗り換えてKirunaまでの道中で、近くにいたアルメニア人とインド人と知り合う。
アルメニア人の方は乗り換えのプラットホームでおもむろに近寄ってきた。どうやらある程度の年齢コードに引っかかるすべての人に声をかけている模様。最初の第一声は君が夜行列車に乗っているなんて知らなかったよ!なんで今まで見つけられなかったんだろう―
話を聞くと交際していた女性と肉体関係を持ったために、女性の家族が雇ったマフィアに追われている―というなんとも日本であれば江戸時代あたりの話か…と思ってしまうような背景を持つ20代後半の男性。半信半疑で話を聞いていたら、日本のヤクザと同じなんだ。居場所が見つかったら殺されるんだ―と。最初はイタリアに渡り、しばらくしてドイツへ。でも同じ飲食業でも北欧では圧倒的に賃金に差があることを知り、遂には北欧の、それもスウェーデンの最北の街のKirunaで働こうと決心してはるばるここまでやって来たという。
仕事はもう見つけているのかと尋ねると、これから探す、と言う。こんな北の街で屋外に放り出しておく人間はいないだろう、と。服装は半袖のTシャツに持ち物は小さなデイバックのみで、地中海地域からそのままやって来たようない出で立ち。まず列車から降りて街まで歩くのに大丈夫だろうか、とやや心配になる。が、社交辞令としての同情を示すだけでも、完全にお互いの距離感が違う位置で次の会話へと進んでいきそうになるのを感じたので、列車の乗り換えで指定席になったのを機に、幸運を祈って(I wish you good luck in your new life!)お別れをした。押され気味で交換したSNSを時折見てみると、彼の思惑通りどうにかやっている様子。
そんな最初の奇妙な旅でのめぐり逢いを終えて指定席に座っていると、一駅ごとに増える増えるスウェーデン人のトレッカーたち。列車内の網棚はトレッキング用の大きなバックパックで埋まっている。斜め向かいに座っているのはどうやらフィンランド人のカップルで聞きなれないメロディーで会話をしている。お、キートスは私も知ってる単語。女性の方は私と同じメーカーのトレッキングシューズを履いていて、あまり知らないので悩んで買った海外メーカー信頼を少し得られた。あまりにもその二人の飲むコーヒーが美味しそうだったので、たまらずにコーヒーを買いに行く。戻ってみると、ちょうど別の主要なトレッキングコースの出発点近くにある駅を通過したのか、大乗客は減っており、2人も空の紙のコーヒーカップを残して居なくなっていた。
フィンランド人のカップルと、向かいには後に話をすることになるインド人のデイバック
インド人の方は、その前の込み合っていた時点から向かいに座っていた20代前半の男性で、日帰りの散策に行くにしても少ない荷物だなあ、となんとなく思って眺めていた人物だった。 膝の上には黒いデイバックが一つだけ。周りの人がいなくなったのをきっかけに、なんとなく、どこへ行くのかと尋ねてみる。目的地は同じくKirunaだった。けれど、彼はLuleåで交換留学生をしていて、その前学期に滞在していたイギリスから引っ越してきた後に使っていた残りのInterrailチケットでフラっと北に行く電車に乗ってみたのだという。ああ、Luleåは確かラップランドへと向かう列車の分岐点となる駅で聞き覚えがある。聞けば私が以前に訪れたことのあるスロベニアの首都リュブリャナにも滞在していたと言い、頭に浮かんでくる思い出について色々と話した。竜のオブジェが素敵だよね。あぁ、またいつの日か行けるだろうか。街中を流れるリュブリャニツァ川とその川沿いに連なるカフェ。入ったお店で日本人の女性に声をかけられたと思ったら、エホバの証人の会員の人で延々と話を聞かされたっけ…。2回目に行ったのはクロアチアのザグレブに住んでいた時。当時雇ってもらっていたオーナーさんに連れられて、アイスを食べにリュブリャナへ。いつも比較のために食べるレモン味のジェラードはとても美味しかったと記憶してる。あの時も川沿いの雰囲気がとても印象に残っている。庶民的な賑わいのあるザグレブのマルクト近辺とは違った、整った美しさのある中心部だった。
インド人と聞かなければ分からないほど癖のない英語で私にはとても助かったし、私が英語は実は苦手であることを話すと、こうやって会話ができるなら全てOKだよ、と言ってくれる言葉にほっとした。つい2週間前に引っ越してきたばかりだという彼は、今から長い夜の冬が少し心配だ、と話す。そんな言葉にいつまでも続く極夜のスピッツベルゲンの話をする。別の世界に生きている感じだよ。でも髪の毛が抜けるからビタミンDを取って、時々強い光には当たったほうが良いよ、と。Kirunaからバスに乗ってNikkaluoktaへと向かうバスへ乗る私と、街や教会を見る予定だ、という彼はバス乗り場のところで別れた。彼もアルメニアの先の彼と同じく美しい雪景色の中で友達と笑顔でいる写真を載せていたので、きっと元気にやっていることだろう。いくつもの都市に住んだ経験のある彼ならもともと大丈夫だとは思っていたけれど。
とても新しくて清潔ではあったけれど、なんだか工業地帯の端に付け足されたようなKirunaの駅でバスに乗り換えて、ここからはNikkaluoktaへと向かう。念のためにストックホルムで両替はしていたけれど、インターネットで買っていたチケットもスマートフォンの画面を見せたら大丈夫で一安心。
さて、バスの終着地にはどんな光景が広がっているのか。