19.9.18

鳥たちの通過する場所・暮らす場所*バルト海沿岸

これは私の個人的な経験からの推測ではあるけれど、ヨーロッパは野鳥愛好家が日本と比べて多い場所だと思う。

聞いたところでは、ドイツでは特にバルト海沿岸の地域に愛鳥家は多いという。
この地域は夏場に多くの湿地性の鳥が見られることもさることながら、春と夏の渡りの季節に、さらに北へと飛んでいく鳥や南へと帰っていく鳥を見られる機会が多いことが影響しているのだろうと思う。


実際、沿岸の街に越してきたときはちょうど初秋だったこともあり、急激に日の出が遅くなる時期に多くの鶴たちがまだ薄暗い朝の行動時間に隊をなして空を横切っていく様子を見たときはその光景に感動したものだった。


北海道の道東地域に暮らしていた時にタンチョウは何度も間近でも見たことはあったが、渡りをしている様子を目にしたことはなかった。近年は道東地方で越冬している個体も多いとも聞く。


ヨーロッパで一般的にみられる鶴(Common Crane / Grus grus)は和名ではクロヅルと呼ばれる。 姿は北海道で見られるタンチョウヅル(Red-crowned Crane / Grus japonensis)とあまり大きな違いは見られないが、和名にあるように、色は明らかに黒ずんでいる。

日本ではタンチョウは色々なモチーフやシンボルとして描かれることが多いが、個人的にはタンチョウヅルのあのはっきりとした白色あってこそなのではないかとも思う。
クロヅルは夏に青々としている草原や畑の中にいてもタンチョウヅルほど強烈な印象はない。

だからと言ってヨーロッパで鶴の人気がないわけではなく、鶴の渡りの状況などを日々刻々と覗けるプラットフォームも存在し、むしろなかなか人々の関心は高い種であると思う。

個人的には、こちらクロヅルは渡りの頃の藁色の草原と赤みを増した太陽光の中でこそ、美しい印象に残る鶴であると思う。


多くの渡り鳥は夏の間をヨーロッパの高緯度地域で過ごし、冬の間はアフリカや地中海沿岸地域などの低緯度・温暖地域で過ごす。
鳥類の起源は低緯度地域であるが、繁殖成功率を上げるために徐々に季節的に高緯度地域へと移動するグループが出現するようになった、と鳥類学で学んだ。

一年に2回も何千キロもの移動をすることは、小さな体の彼らにとって負担にならないはずがない。
それでも彼らに組み込まれた遺伝子と環境からの刺激との相互作用は、彼らに移動しなければならない衝動のようなものを与えるのだろう(一方で気候や環境条件の変化によって数世代で渡りをしなくなることもあるという)。

いったいどこが彼らにとっての故郷なのだろう、いや、そもそもそんな感覚はないのだろうか。
そんなことを思いながら秋の黄金色の中で彼らの渡りを見送る。