日本の最後の秘境とも呼ばれる知床。
観光客で賑わうのは夏だけれど、暮らす人間、生き物にとって一番賑やかなのは秋だろう。
知床の夏は短く、気がつけば緑の木々が季節の変わりとともに、午後の陽光のようなオレンジに照らされるようになったかと思えば、その光を吸い込むがごとく日に日に色づきを増してゆく。
ヤマモミジのような一本で存在感のあるグラデーションを作る樹木は少ないが、
トドマツなどの常緑針葉樹とミズナラやカシワの黄、ヤマブドウやツタウルシの赤、その他にも柔らかな中間色を彩る様々な木々。
ひとつの風景としての柔らかな紅葉が知床の秋の色。
近づいてみればたくさんの果実やキノコが目につく。
コケモモ、ヤマブドウ、サルナシ、オンコ、どんぐり(ミズナラ、カシワ)、マイタケ、シイタケ、ハナイグチ…
秋の深まりとともに、森からはエゾシカの奇妙なラッティングコールも聞こえてくるようになる。
命をつなぐ、繁殖期の牡鹿の求愛行動の一つだ。
山だけではない。
知床は山を下ればすぐに海。
夜の海にはイカ釣りの漁火も灯る。
人々は秋のご馳走に舌鼓。
もちろん、これらは森に住む生き物たちの命もつないでゆく。
命がきらめく季節が春ならば、命が輝く季節が秋ではないかと思う。
少しづつ近づいてくる残酷なほど美しい次の季節があるから、
生の躍動が切ないぐらい激しく心に響いてくる。